ジャーナル

【8月のお便りエッセイ】まだ描かれない夏の思い出

【8月のお便りエッセイ】まだ描かれない夏の思い出

月末のジャーナル「月のお便りエッセイ」では、HAA編集部が1ヶ月を振り返って見つけた"深呼吸の種”をエッセイに込めて、お手紙を出すような気持ちでお届けしています。

「は~」と深呼吸しながら、その封を開けてみてください。

 

目の前に真っ白な画用紙を広げて、娘が両手で頭を抱えている。
マンガで見るような、夏休みの宿題が終わらない小学生の姿だ。

「夏休みの思い出を絵日記に描きましょう」
この宿題だけ、なかなか終わらないらしい。
「何を描くの?」と聞くと、「描きたいことがありすぎて、全然決まらないんだよ……」
そう言って、大の字に寝転がってしまった。なんて幸せな悩みだろう。

家族旅行、お盆の帰省、近所のお祭りや花火大会。
短い夏休みの間、絵に描き残したくなる出来事は、確かにたくさんあった。
色々な景色を見て、なかなか会えない人と話し、心も身体も忙しく遊び回った数日間。できたてホヤホヤの思い出はまだ熱を帯びたまま、私の心にも刻まれている。

けれど、夢のように楽しいひとときが終わった後に待っていたのは、他でもない「暮らし」だった。朝目覚め、家事をし、働き、整え、眠りにつく。一見すると退屈なルーティンのように思えるけれど、そんな日常を淡々と過ごせることに、心からほっとしている自分がいる。

旅先で見た景色も良かったけれど、この街の見慣れた景色も好きだ。
ホテルの食事も最高だけれど、自分でつくった料理も悪くない。
温泉も気持ち良かったけれど、家のお風呂でゆっくり過ごすのも格別だ。
仕事をせずに過ごすのも良いけれど、働く日々にも確かな楽しさがある。

“特別”な時間を過ごす度に、それは“ふつう”の時間と地続きにあって、人はその間を行ったり来たりしながら、ささやかな幸せを探す生き物なのだと、つくづく思い知る。そのどちらもが尊く、かけがえのない時間だということを、できるならばいつだって忘れたくない。

結局、娘の画用紙は白いままで、一日が終わろうとしている。
夏休み終了まであと数日。果たして画用紙にはどんな“ふつうと特別”が描かれていくのか。
小さな楽しみを胸に、過ぎていく夏にそっと思いを馳せた。

text by 佐藤ちえみ

 

 

お盆休みが明けて忙しい日常が戻ってきましたね。夏らしいイベントが沢山あった8月。ここから、徐々に秋らしい空気に変わっていきます。少し落ち着いて、余白の時間を楽しむのにはぴったり。秋ならではの楽しみ方を想像しながら、来月も“は~”っと深呼吸していきましょう。

 


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HAA編集部
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