大人になってからずっと、夏が苦手です。
5分歩けば噴き出す汗。
肌にまとわりつく、熱を帯びた湿気。
「夏はどう頑張っても深呼吸できないな……」
そう思っていました、去年までは。
でも今年は、夏が来るのがちょっとだけ楽しみでいます。
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子どもの頃、"夕焼けチャイム”が鳴ったら家に帰るのが我が家のルールでした。
街の防災無線から流れる「夕焼け小焼け」や「ふるさと」のメロディー。
みなさんも、聞いたことはあるでしょうか。
友達と別れ家路を急ぎながら、夕焼けを眺めて「今日も楽しかったな」と思う。
あのひとときは、まぎれもなくHAA時間でした。
ところが大人になってみるとどうでしょう。
夕焼けチャイムが鳴る頃のわたしは、
なかなか仕事が終わらずパソコンと睨めっこしていたり
子どもに「お腹空いたよー!」と急かされながらご飯をつくっていたり。
残り数パーセントのHP(体力)を絞りだし、時間に追われながら夜に突入していく。
もっと深呼吸したいな。
それはとても切実な願いなのです。
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ある日のこと。
その日もバタバタしていて、うっかり洗濯物を取り込み忘れたことに気づき
ため息交じりでベランダに出ると、目に飛び込んできたのはとても綺麗な夕焼けでした。
「ちょっと来てー!」と家族を呼びつけ、始まった束の間の夕焼け鑑賞会。
その美しさに浸りたくて、洗濯物はそのままに、ぼ~っと日が暮れていく様子を見ていました。
「ねぇ、せっかくだから散歩行こうよ」
子ども達にそう言われ、サンダルを履いて外へ。
昼間の熱気も少し落ち着いた街を歩く時間は、夕暮れチャイムが鳴って家路急いだ子どもの頃と同じ。
なんだ、やればできるじゃん。
そんな風に嬉しく思いながら帰宅すると、手つかずの洗濯物が目にとまりました。
畳まなきゃ、と一瞬頭をよぎったけれど、
「ま、いっか明日の朝で。それより、汗かいたしアイスでも食べちゃう?」
そう口にしたとき、思ったんです。
ちゃんと深呼吸できたんだな、と。
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調べてみると、夏の夕焼けは他の季節よりも赤く染まりやすく、ゆっくり時間をかけて沈んでいくのだとか。
「そうか。夏の夕焼けは、季節限定のご褒美なんだな」
そう思えてから毎日、日の入時間の午後7時になると窓の外を気にするようになりました。
夕焼けを見ながら深呼吸すると、
1日の疲れや
頭にこびりついたモヤモヤが
ふわ~っと空に溶けていく。
特別なことじゃない。
このたった数分で
自分で自分の首をしめていたことも「ま、いっか」と思えたり
シンプルに「今日も頑張った〜!」と思えたり
そういう瞬間が明日の自分の背中を押すのだと思うのです。
仕事終わりに飲む一杯のビール。
お風呂上りの冷たい麦茶。
茹でたてのトウモロコシにかぶりつく瞬間。
夏の日常にある深呼吸を、
それによって生まれる余白を、
ちゃんと感じていたい。
今年はそれができるような気がする。
嬉しい予感を、手触りのある現実にすることができますように。
今日もしたたる汗を拭いながら、そんなことを思っています。
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今回は、「わたしのHAA Switch~夏編~」をお届けしました。
自分なりの深呼吸の方法が分かると、日常に余白と余裕が生まれ、日々が少しだけ明るくなります。
みなさんの夏のHAA Switchはなんですか?
今年の夏も暑くなりそうですが、「は~」と深呼吸して過ごしていきましょう。
(執筆:佐藤ちえみ)