「え、本の返却期限、今日までじゃん！」

カレンダーを見て、先日図書館で借りた本の返却期限が今日だということに気づく。
時刻は午前11時。天気予報によると午後から雨が降るとのこと……タイミングは今しかない。
「ササっと行って帰ってこよう」
そう思い、私は自転車にまたがった。

20分ほど自転車を漕いで、図書館に到着。
借りていた本を返し、新たに借りる本を選ぶ。
仕事で使う資料、好きな作家のエッセイ、レシピ本。あとは、子ども達が好きそうな絵本や児童書を手に取った。

貸出手続きを済ませ、いそいそと帰ろうとしたとき、出口の近くに張り紙が貼ってあることに気づいた。
「秋の絵本あります。もう一冊借りてみませんか？」

張り紙の下には、秋がテーマのさまざまな絵本が並べられている。
ほとんどが知らない絵本だったが、その中の一冊に目が留まった。

絵本のタイトルは『きんいろのあめ』。私が子どもの頃何度も繰り返し読んだ、大好きな絵本だ。
「うわ～！懐かしい」。そう思い、ゆっくりとページをめくった。

“のはらを　さわさわと　うたいながら
はしっていくのは、あきのかぜ。
かぜが　はしっていく　たびに、　そよそよと　ゆれるのは、すすきの　ほ。
さやかは、すすきの　なみを　わけて、やまぶどうを　さがします。”

冒頭のページを読んだだけで、懐かしい記憶が一気に蘇る。
「まるで風景が浮かび上がるような言葉の表現、好きだったな～」
「このイラストも、見ているだけでやさしい気持ちになるんだよね」
まるで子ども時代の自分と対話するように、わくわくしながらページをめくっていく。

そうして読み終えたときには、自然と「は～」と吐息が漏れていた。
昔好きだったものに再び出会えたことが、こんなに嬉しいとは。

もしかしたら、そういう本はもっとあるかもしれない。そう思って、今度は児童書コーナーに行ってみた。

中学生の頃、夢中になって読んだ、『バッテリー』。
高校生の頃に一番好きだった、『きいろいゾウ』。
大学時代に何度も読んだ、『きらきらひかる』。
そして、いつ読んでも色あせないバイブル、『もものかんづめ』。

それらを次々手に取って、私はもう一度貸出カウンターに並んだ。

§

帰宅して、エコバッグから借りた本たちを取り出していく。好きな本だけが並ぶ姿は、それだけで幸せだった。その日から、毎晩少しずつ、本を読み進めた。

グッとくるシーン、懐かしい台詞が、時を超えて今の私に染み込んでくる。
昔好きだったシーンは、やっぱり今でも好きだった。
あの時は分からなかったけれど、今なら分かるというシーンもあったし、
あの頃は共感したけれど、今は随分遠く感じる部分もあった。
笑いのツボは、今も昔もあまり変わっていないようだ。

心の温度や手触りを確かめながら、ページをめくる時間は、とても幸せなひとときだった。

「話題の本だから」とか「仕事の役に立つから」ではなく
「ただ好きだから」という理由で選んだ本を読む時間は、ふくふくと、幸せな空気をまとう。
まるでお風呂に入ったときのように、心がほどけていくようだった。

§

2週間後、図書館に本を返却。とても清々しく、少し元気になったような、そんな気持ちだ。
昔の「好き」に沢山触れたら、新しい「好き」を探したくなった。今年の秋は、新しい「好き」を探す秋にしたい。

text by 佐藤ちえみ

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