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忙しい日々の中でも、健やかに生きていきたい。
そのためには、どうしたらいいのだろう?
そんな問いから、連載企画「深呼吸のはなしをしよう」は生まれました。
心に余白を生み出す行為や状態を「深呼吸」という言葉で表現し、対話を通して、その人なりの深呼吸スタイルを探っていきます。
みなさんも一緒に深呼吸について考えてみませんか?
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第三回のゲストは、HAAの石川信太朗です。
大阪生まれ、大阪育ち。その後、東京でスタートアップに就職し忙しく働くなか、コロナ禍をきっかけにアドレスホッパー(定住する特定の家を持たずにさまざまな場所を転々としながら暮らす人)に。働きながら車一台で全国を旅し、辿り着いた別府でHAAに転職しました。
「最近、深呼吸がより具体的に認識できるようになった」と言う石川に、HAA編集部の佐藤が話を聞きました。
深呼吸という概念すらなかった東京時代
佐藤:石川さんと深呼吸の話をするのは、「暮らしの中の深呼吸」というインタビュー企画以来、約2年ぶりですね。当時、すごく自然に深呼吸しているなぁという印象でしたが、元々深呼吸は上手だったんですか?
石川:いえいえ。東京で働いていた頃は、深呼吸という概念すらなかったですね。常に生産性を求めて動いていたし、休みの日も仕事に必要な内容の本ばかり読んでいました。当時は、HAAがいう“深呼吸”も、それによって心に余白が生まれることも、認知すらしていなかったと思います。
佐藤:気づいたきっかけは何だったのでしょう?
石川:一番象徴的だったのは、アドレスホッパーとして全国を旅したことだと思います。よくゲストハウスに泊まっていたんですけど、そこのおっちゃんに「どうしてゲストハウスを始めたんですか?」とか聞くじゃないですか。そうすると、「いや~昔はサラリーマンだったんだけど脱サラしてね……」とか、すごく楽しそうに話してくれるんですよ。ほかにも、田舎で結構幸せそうに暮らしているおじいちゃん、おばあちゃんと出会うことが多くて。たくさん働いてお金を稼ぐことが良しという価値観の中で生きてきたわたしは、これってどういう構造なんだろうと興味を持ったんです。
石川:興味は持ったものの、当時はうまく言語化できなかったんですけど……。今振り返ると、多分みんな心に余白がある状態で、それがすごく「いいな」と感じたんだと思います。自分がこれまで良しとしてきた“コスパ・生産性命”みたいな価値観ではなく、“自分にとって何が良いか”が大切なのでは?と思うようになりました。そういう新たな価値観が芽生えたタイミングで別府に辿り着き、HAA代表の池田と出会って、深呼吸の話や会社のビジョンを聞いて共感し、転職しました。この一連の流れが、わたしが深呼吸の大切さに気づいた最初の出来事でしたね。
深呼吸について分かってきたこと
佐藤:深呼吸の大切さに気づいて、実際に生活に取り入れてみて、どうでしたか?
石川:前回インタビューを受けたのは約2年前だったんですけど、あの頃は別府に移住して間もない頃で、心に余白があればあるほど良いと思っていて……。今振り返ると、その分量がちょっと多すぎたなって思います(笑)。あれから2年が経って、自分の暮らしに深呼吸を取り入れるときのちょうどいい配分が分かってきました。
佐藤:深呼吸しすぎるのも、石川さんにとっては違ったんですね?
石川:そうですね、ちょっとダラダラしすぎているような気がして。最近はメリハリや強弱をうまくコントロールできるようになりました。あと、迷わなくなりました。以前は、「今、深呼吸すべきか?それとも集中して生産すべきか?」と結構迷っていたんです。最近は、「今は集中、今は深呼吸」と、迷わず選択できるようになりました。これは自分にとって大きな変化でしたね。
佐藤:「迷わない」というのはきっと、ご自身の深呼吸スタイルを確立されたからなんでしょうね。ちなみに最近はどんな風に深呼吸しているんですか?
石川:仕事の日は、合間に珈琲をハンドドリップで淹れたり、5分くらい縁側でぼ~っとしたり、近所の温泉に浸かったりしています。HAAがいう深呼吸というのは、心に余白がある状態を作るための手段であって、その方法やタイミングは人によって違うから、人それぞれにぴったりのやり方があると思います。
石川:休みの日は、バイクに乗るのが一番の深呼吸ですね。1台目はスポーツバイクで、馬力もあってスピードも出るタイプだったんです。でも、あまりしっくりこなくて。深呼吸したいと思って休みの日に乗っても、逆に疲れちゃってたんですよね。それを最近、馬力重視のスポーツタイプから、ゆっくりクルージングを楽しむタイプのバイクに乗り換えたら、田舎道をのんびり流すくらいの乗り方が自分にとってベストだと分かりました。
佐藤:「バイクに乗る」という意味では同じですが、石川さんにとって深呼吸できるポイントが違ったんですね。
石川:そうなんです。ゆっくり走ると、その土地土地の空気や匂いの違いを直に感じられて、それがわたしにとっての深呼吸なんだと気づきました。スピードの出るバイクでは、そこまで繊細なものを感じられなかったので。
佐藤:なんとなく分かります。私は歩くのが好きなんですが、車やバスに乗っていては気づかないものに気づけるのが楽しくて、延々と歩いちゃうんですよね。そういうとき、すごく深呼吸できてるなと感じます。
石川:歩くって、贅沢な時間ですよね。東京に住んでた頃は、歩く時間って勿体ないとしか思っていなかったけど、実は普段見逃しがちなことに気づいたり、考えたりできる、ひとつの深呼吸の方法なんだなと思えるようになりました。
佐藤:深呼吸ゼロの東京時代と、深呼吸できている今とでは、あらゆることに対して感じ方が全然違いますね。
石川:そうですね。でも正直、今の社会の構造では、それに気づくのは結構ハードル高いなと思うんです。僕はたまたま気づけたからラッキーだったけど、そうじゃない人がたくさんいるはずだから、気づきのきっかけをつくることも、HAAの大切な役割だと思います。
深呼吸すると、人はやさしくなれる?
佐藤:ここまで、ご自身の中での深呼吸についてお話を伺いましたが、対人関係やコミュニケーションにおいて深呼吸がもたらす作用のようなものは感じていますか?
石川:深呼吸と人間関係には、因果ではないけれど、相関性はあると思っています。「余白がないから、身近な人に強く当たってしまった」という例で考えてみると、もちろん余白があった方が相手を傷つけない言い方を考えたりできるので、良い面は大いにあると思う一方、深呼吸して余白ができてからやさしくなれるまでの間にもう一段階気づきのようなものが必要なケースが多いと思います。
石川:自分が思っていることを臆せず伝えることや、問題から目をそらさずに向き合う勇気がそもそも大切だったりするから、「深呼吸してやさしく言えた=OK!」ではなく、深呼吸した結果、違う視野をもったり、今までと違う世界の捉え方に気づいたとき、やっと人にやさしくなれると思うんです。HAAは、深呼吸できる人が増えると、やさしい世界に変わっていくと信じてはいますが、深呼吸が人にやさしくなるための直接的な解決策ではないと思っています。
佐藤:なるほど。深呼吸した上で、本質的な課題にもちゃんと向き合ってはじめて、次のステップに進めると。
石川:そうですね。だから、HAAとしてわたしたちができるのは、やはり深呼吸を届けて、心の余白をつくるところまで。それらを感じとった方々が、新しい気づきをお互いにうまく循環させることで、やさしい世界ができたら嬉しい。と、我々のメッセージを受け取った方々に信じて委ねているのだと思います。
佐藤:信じて委ねる。良い言葉ですね。
まずは、深呼吸時間0分→5分に
佐藤:石川さんは、HAAの一員としてどんな風に深呼吸を届けていきたいと思いますか?
石川:今は、深呼吸の重要性に気づきにくい社会構造があったり、気づいてもうまくできない人が大半だと思います。まずはそういう人達の深呼吸時間を0分から5分にすること、余白を0から1にすることが、我々が最初にやるべきことだと思います。それができると信じて、商品やサービス、コンテンツなど、色々なことを展開していきたいですね。
石川:こういう話をすると、過去のわたしのようにキョトンとする人もいる一方で、深く共感してくれる人も結構多いんですよね。その度に「これは、余白を持ちながら生きていける時代も近いのでは……?!」と思うし、個人的には3〜4年後あたりで分岐点がくる気がして、今すごくワクワクしています。HAAも、売上だけではなく、商品やサービスを通して世の中にどれだけ深呼吸を生み出せたかをしっかりモニタリングして、深呼吸が当たり前の社会づくりに貢献していきたいですね。
あなたにとって、深呼吸とは?
石川:未来を切り拓くインフラです。深呼吸は、ガス・電気・水道と同じくらい、今の時代を健やかに生きるために必要不可欠だと思うんですよね。だってわたし、深呼吸なしの生活にもう戻れないですもん(笑)。しかも、しかもですよ!深呼吸は、電気やガスのようにインフラ工事を誰かがしてくれるのを待ったりしなくても、誰にでも自分の感性とトライアンドエラーで勝ち取れるんですよ。これ……みんなやった方が良くないですか?と思ってます。
佐藤:確かに、気づいた瞬間に勝ち取れるインフラですね。
石川:そうなんです。多分気づいていなかったり、もしかしたら許されないと思っていたりする人もいるんじゃないかな。休むことに罪悪感を感じる方って、一定数いるような気がします。そういう人が、はじめて深呼吸して心に余白ができたとき、人類にとってはじめて電球に明かりが灯った瞬間と同じくらいびっくりすると思います。そして、休んでも許されるんだと気づくはずです。
人は、深呼吸なしでは生きていけないはずなのに、深呼吸なしで生きている人がたくさんいる。こういう社会のあり方を、これからのさまざまな取り組みを通して変えていきたいですね。
佐藤:インフラという言葉は希望だし、石川さんらしさもあって、すごく印象的でした。HAAがこれからどんな風に深呼吸を届けていくのか、ますます楽しみになりました。石川さん、今日はありがとうございました!
執筆:佐藤ちえみ
撮影:松良ゆに