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月末のジャーナル「月のお便りエッセイ」では、HAA編集部が1ヶ月を振り返って見つけた"深呼吸の種”をエッセイに込めて、お手紙を出すような気持ちでお届けしています。
「は~」と深呼吸しながら、その封を開けてみてください。
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朝8時。いつもの時間に、家を出発する。
春らしい、柔らかい光が射すこの季節。1年ぶりに袖を通したピンク色のブラウスが、風を取り込んでふんわりと膨らんだ。今年もこの季節がきたんだな。
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田んぼ沿いの坂道を下っていくと、向かい側から小学生の女の子が歩いてくる。
この時間、この場所で、毎朝すれ違う彼女。「おはよう」と挨拶するうちに、いつしかハイタッチするまでの仲になり、それはわたしの中でささやかな朝の楽しみになっていた。昨日は珍しく涙目で、お母さんに手を引かれてトボトボ歩いていたけれど、今日はひとり、笑顔でこちらに向かって歩いてくる。大きな声で「おはよう」と言い、力強いハイタッチを一発。「いってきまーす!」とかけていく彼女の背中に、心の中で「今日もファイト!」とエールを送った。
少し歩くと、近所に住んでいるOさんが、信号のない小さな交差点に立っている。
わたしの母くらいの年齢のOさんは、つい数年前まで学校の先生をしていたそうで
毎朝、交通整備の旗を持ち、ボランティアで子ども達の安全を見守っているのだ。
ひとりひとりの小学生に、「おはようございます、いってらっしゃい」とやさしい笑顔で声をかけるOさんを見てわたしもこんな大人になりたいな、と思った。(……もう既に大人なのだけれど。)
また少し歩くと、近所のおばあちゃんに遭遇。
「おはようございます」と挨拶すると、おばあちゃんは持っていた新聞紙をおもむろに開いた。
「これ、今畑からとってきた三つ葉とネギ。良かったらあげる」と持たせてくれた。
お礼を言って受け取ると、ふんわりと三つ葉が爽やかに香った。
私はもう一度顔を近づけて、その香りをたっぷりと体に吸い込んだ。

§
とはいえ、生きていると色々なことがある。
誰かと比べて勝手に落ち込んでしまったり、心配事や不安に頭の中を支配されてしまったり。
「あ~、なんかうまくいかないな」という日は、案外多い。
だからこそ、良いバイブスを感じられた朝は、元気が湧いてくるというか、救われる気がするのかもしれない。意図せず舞い込んだ幸せには、そういう力があるのだろうか。
多分、今日はいい日になる。
きっと、良い動きができるよ。
「今日の占い」なんて当てにしなくても、
良い予感が少しでもしたなら、もうこっちのもんだ。

ツバメたちはせっせと巣をつくり、鯉のぼりは悠々と空を泳いでいる。
「おはよう」から始まった、清々しい今日という日。
「おやすみ」と電気を消すまでの1日を、私なりに精一杯過ごしてみようか。
texy by 佐藤ちえみ
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今回は、ある朝の出来事をエッセイにしてお届けしました。
なんとなく良い予感を感じる日ってありますよね。その予感はきっと、自然とあなたの呼吸を深め、心に余白を運んできてくれるはず。
良い予感に気づいたら、身を任せてみる。そんな1日があっても良いのではないでしょうか。