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月末のジャーナル「月のお便りエッセイ」では、HAA編集部が1ヶ月を振り返って見つけた"深呼吸の種”をお届けしています。
「は~」と深呼吸しながら、その封を開けてみてください。
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わたしは笑っていた。
「も……もう許して」
心の中でそう呟きながら、両目から涙を流し、お腹を抱えて。
数か月前、神奈川の実家から京都の我が家に、両親が訪ねてきた。
夕飯の食卓を囲み、お酒を飲みながら父はこう言った。
「お笑いはいいぞ。元気がなくなることがあったら、お笑いを見に行け」。
とはいえ、なかなか機会がないまま月日が流れていき、夏休みに突入した。
「お盆に京都に遊びにいってもいい?」
そう連絡をくれたのは、愛媛に住む友人だ。
彼女は大人になってからできた10年来の友人で、1ヶ月に1度は長電話をする仲。ここ数年、彼女は特に仕事に追われ忙しそうにしていた。
楽しい時間を過ごしてほしいと思ったとき、わたしは父の言葉を思い出した。
京都の祇園には、「よしもと祇園花月」というお笑いの劇場がある。
わたしは彼女を誘い、人生初めてのお笑いライブを見に行った。
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夏休み中ということもあり、平日にも関わらず会場は盛況だった。
皆、笑うために集ったのだと思うと、それだけでワクワクしてくる。
開演のブザーが鳴りステージは暗転。スポットライトが光り、調子が良い音楽と共に最初のコンビが登場した。あたたかい拍手に包まれるなか、「どうも~」と漫才が始まった。
続いて大道芸、コントと続き、会場が温まったところで登場したのが、ブラックマヨネーズだった。
テレビをあまり見ないわたしでも、彼らのことは知っている。
彼らは掴みの一言目から観客の心を鷲掴みにした。
会場の温度が3度くらい上がったような気さえする。
お笑いの面白さほど言葉にするのに難しいものはないが、序盤から怒涛のトークが繰り広げられ、お決まりのギャグ「ヒーハー!」が連発された時には、既にわたしの腹筋は崩壊寸前。
隣で震えている(笑いすぎて)友人の肩を叩き、わたしたちはハンカチで目じりを押さえながら「も……もう許して」と呟き合った。
正真正銘、今年一番の笑いだった。
§
日々、暮らしていると色々なことがある。
大なり小なり、悩みが尽きることはない。
時間が解決してくれることもあれば
なかなか難しいものもある。
それでも、笑えば
笑うことができれば
束の間、心は軽くなる。
お笑いライブが終わり会場を出たわたしたちは
「あれ面白かったね」と言い合いながら祇園の街を闊歩した。
翌朝、3泊4日の滞在を終え、彼女は愛媛へ帰っていった。
その後ろ姿に手を振りながら、わたしは彼女に「がんばれ」と小さな小さなエールを送る。
また笑い合って再会できることを願って。
執筆:佐藤ちえみ
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8月はお盆休みもあり、友人や家族と賑やかな時間を過ごした方も多かったのではないでしょうか。楽しい思い出を力に変えて、秋らしさが増していく9月も楽しめたらいいなと思います。
今月もお疲れさまでした。
来月も「は~」と深呼吸していきましょう。
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