忙しい日々に、深呼吸するひとときを届けるHAAのものづくり。
薬用入浴剤「HAA for bath」のなめらかな湯ざわりや、新しく誕生した「湯の花洗顔」の心地よさを支えているのは、大分・別府の湯の花小屋でつくられる天然の「湯の花」です。
今回HAA編集部は、ブランド創業前からお世話になっている、湯の花職人・草牧信彦(くさまき・のぶひこ)さんのもとを訪ねました。
江戸時代から約300年続く伝統製法を守り、自然と対話を重ね続ける、職人の真摯な手仕事の舞台裏をお届けします。
時代の波を乗り越え、現代へ繋いだ湯の花づくり
別府の山深く、自然豊かな湯山地区。 山肌に佇む茅葺き小屋で、草牧さんのご家族は代々、湯の花を作り続けてきました。

草牧さん:
「かつてこの地域では、多くの家が『湯の花小屋』を持ち、盛んに製造を行っていました。当時は、湯の花のことを『ミョウバン』と呼び、染物や薬に広く使われていたんです。しかし、時代の移り変わりと共に、安価な海外製の原材料が流入するようになりました。今では、別府で湯の花をつくっている生産者は、明礬地区・湯山地区あわせて4軒のみになりました」
時代の波に揉まれながらも、バトンを繋いできた先代たち。草牧さんは想いを受け継ぎ、希少となったこの地の湯の花を、今も守り続けています。
自然素材で組まれた湯の花小屋
そんな草牧さんが家業を継いだのは、31歳のとき。それまでは福岡など都市部で会社勤めをされていましたが、先代の仕事を継ぐ決意をし、故郷である別府へ戻ってきました。

草牧さん:
「仕事を教わったのは祖父からでした。祖父は研究熱心な人でね、『小屋の柱の長さはこれ以上短くしたらダメだ』とか、細かいところまでよく考えてやっていました」
湯の花小屋は、石、木、竹、そして茅(かや)や藁(わら)といった、自然素材で組まれています。ただ組み合わせるだけでなく、素材の特性を見極め、緻密なバランスで組み上げるには、極めて高度な職人技が必要とされます。
草牧さん:
「湯の花小屋の屋根部分には、内側に茅を、その上に藁を敷きつめています。藁はだんだん経年変化で馴染んでくるのですが、そうなると不思議なことに藁同士がぴったりくっついて、雨が入らなくなるんです。雨の流れる量が多い下のほうを少し厚く、上のほうを薄く、など絶妙な加減で敷いていくんです」

手間のかかる自然素材ですが、あえてそれらを選ぶのには、温泉地ならではの環境と、繊細な湯の花を育てるための理由がありました。
草牧さん:
「金属製の釘は、温泉の蒸気ですぐに錆びたり傷んだりしてしまうんです。他にも、例えば紐部分にナイロンなどの人工物を使うと結露が生じ、その水滴が地面に落ちて、湯の花が吹かなくなってしまうこともある。自然素材を使うことは、湯の花が育ちやすい環境を整えるために、一番理にかなっているんです」
湯の花小屋は、状態を観察しながらメンテナンスを行い、約30年に一度、骨組みからすべてばらして建て替えるそうです。
草牧さん:
「小屋を建て替えるときには、地面に石畳を敷くのですが、蒸気が通る空間をつくるために、尖った形の石を選びます。そうやって、自然の蒸気をコントロールする構造を作り上げるんです」
こうしたさまざまな知恵と計算が息づく湯の花づくりは、国の重要無形民俗文化財にも指定されています。
職人が見極める「良い塩梅」
湯の花づくりは、全て手作業で行います。
温泉の蒸気が漂う湯の花小屋は、夏場ともなれば、40度近くまで温度が上昇する過酷な環境。
熱がこもる空間での作業は30分が限界で、外に出ては、また中に入るという繰り返しなのだそう。

小屋の中に敷き詰められているのは、別府の山で採れる希少な「青粘土(モンモリロナイト)」。温泉の蒸気の中にある成分と反応し、霜柱のような湯の花を生み出す、いわば土台のようなものです。
この青粘土は、定期的に敷き直しが必要で、スコップや足を使ってギュッギュッと地面を踏み固めることを、職人の言葉で「締める」と呼びます。
草牧さん:
「うまくいく時と、うまくいかない時がやっぱりある。粘土を締める加減が甘いと、綺麗な花は吹きません。成分が出るための多少の隙間を残しながら、綺麗に粘土を密着させる。その加減が難しい」

毎日様子を見にいき、色や変化を観察する。「今回は締め方が少し甘かったな」など、失敗から学びながら、何十年も自然と対話し続ける。こうした試行錯誤を経て、湯の花は大切に育て上げ、作られるのです。
草牧さん:
「時間も手間もかかるけれど、納得の湯の花が吹いた瞬間は、やっぱり嬉しいね」
そう語る草牧さんは、どこか誇らしそうに感じました。
HAA時間は、晩酌とお風呂
毎日汗を流しながら湯の花を育てる草牧さん。そんな日々のなかで「は~」っと一息つける“HAA時間”は、どんなときなのでしょうか。
草牧さん:
「仕事後のビールと、お風呂かな。仕事から帰ってきて、夕飯の前に、まずはビールを一杯。三世代で一緒に湯の花づくりをしていた頃は、祖父は焼酎、父は夏でも熱燗、僕はビールと、それぞれ自分のお酒を持ってきて、揃って一杯やるのが日課でした」

草牧さん:
「仕事中は汗をかくので、風呂で一日の汗を流す時間も格別です。仕事のあとの、ビール・食事・風呂。このルーティンは、湯の花づくりを始めてからずっと変わりません」
自然の営みと確かな職人技で、日常に深呼吸を届ける
決して人間の思い通りにはならない自然と対話を重ね、目に見えない微細な変化を捉えながら、仕事に向き合う日々。職人としての37年間を、草牧さんはこう振り返ります。
草牧さん:
「自分が納得するまで作業ができるこの仕事が、性に合っているんだと思いますよ。自然の気配を感じながら湯の花づくりに向き合うことが、私の日常です」

HAAのものづくりにおいても欠かせない「湯の花」。それは、先人たちの知恵と技術を受け継ぎ、未来へ繋ごうとする、草牧さんというひとりの職人によって支えられています。
そんな湯の花の魅力が、日本中、世界中に、深呼吸と共に広がっていく。
別府の湯の花小屋から、皆さんの元へ、
こころがやさしくとけていくような時間を、わたしたちはこれからも、届け続けます。




