匂いの街角
夕方、ときおり知らない住宅街を通ると、なつかしい匂いに再会することがある。
小さい頃、父が作ってくれた焼きそばの匂い。ピーマンを炒めるときの、あのなんとも言えない夏の香り。胡麻油。嗅覚は、そのとき食べた景色や、味まで呼び覚ましてくれるから不思議だ。
父は、料理が好きな人だった。普段は事務仕事をやっていたけれど、若い頃は調理師学校に通っていたこともあるらしい。
日曜日のブランチに作るチャーハン。生イカを買ってきては煮込むイカと大根の煮付け。運動会の前日には、生姜とニンニクを丸ごと買ってきて擦りおろし、醤油、味醂、料理酒に鶏モモ肉を漬け込んだ特製の唐揚げを仕込むのが決まりだった。それが、私の一番好きなお弁当のおかずだった。
私の保育園の友達家族が遊びに来た時なんかは、スイカを大玉で買ってきて中をくり抜き、蜜柑や白桃など色とりどりのフルーツを詰めたフルーツポンチを振る舞った。サービス精神旺盛な父の、サプライズだったのだと思う。目を輝かせて喜ぶ子どもたち。その顔が見たくて、手のかかる品々を用意していたのだろう。
父が亡くなってから、もう20年が経った。
もう、あの手料理の味の記憶はおぼろげだけれど、父の料理の香りにとてもよく似た匂いに出会ったとき、ふと、あのご飯たちのことを思い出す。
そして、料理はいちばん身近な愛情表現だったんだと、大人になった今ならとてもよくわかる。自分が作ったものが、人を喜ばせる。手を掛けた料理が、その人の身体をつくる。健康にする。
私もいつか「この人に自分の料理を食べ続けさせたい」と思うような存在ができるのだろうか。それはまだわからないけれど、あの頃の父がそんな風に日々思えていたのだとしたら、幼かった私は、きっと幸せ者だったのだと思う。
小さい頃、父が作ってくれた焼きそばの匂い。ピーマンを炒めるときの、あのなんとも言えない夏の香り。胡麻油。嗅覚は、そのとき食べた景色や、味まで呼び覚ましてくれるから不思議だ。
父は、料理が好きな人だった。普段は事務仕事をやっていたけれど、若い頃は調理師学校に通っていたこともあるらしい。
日曜日のブランチに作るチャーハン。生イカを買ってきては煮込むイカと大根の煮付け。運動会の前日には、生姜とニンニクを丸ごと買ってきて擦りおろし、醤油、味醂、料理酒に鶏モモ肉を漬け込んだ特製の唐揚げを仕込むのが決まりだった。それが、私の一番好きなお弁当のおかずだった。
私の保育園の友達家族が遊びに来た時なんかは、スイカを大玉で買ってきて中をくり抜き、蜜柑や白桃など色とりどりのフルーツを詰めたフルーツポンチを振る舞った。サービス精神旺盛な父の、サプライズだったのだと思う。目を輝かせて喜ぶ子どもたち。その顔が見たくて、手のかかる品々を用意していたのだろう。
父が亡くなってから、もう20年が経った。
もう、あの手料理の味の記憶はおぼろげだけれど、父の料理の香りにとてもよく似た匂いに出会ったとき、ふと、あのご飯たちのことを思い出す。
そして、料理はいちばん身近な愛情表現だったんだと、大人になった今ならとてもよくわかる。自分が作ったものが、人を喜ばせる。手を掛けた料理が、その人の身体をつくる。健康にする。
私もいつか「この人に自分の料理を食べ続けさせたい」と思うような存在ができるのだろうか。それはまだわからないけれど、あの頃の父がそんな風に日々思えていたのだとしたら、幼かった私は、きっと幸せ者だったのだと思う。