お姉ちゃんが結婚する
お姉ちゃんが結婚する。結婚式は、家族だけでやるそうだ。小さな式でも準備はそれなりに大変で、会場、衣装、食事など、ひとつひとつ決めていくなかで2人の気持ちは、時にぶつかり、悩みながら絡み合っていた。
そんな様子を聞きながら、なぜか高校生の時の追試を思い出した。
思春期によりややこしかった私は、学校に行かない日も多く、生物の単位を落としそうだった。追試の出題範囲は「生物多様性」。簡単に言えば生態系の為に多様な生き物が必要という話だが、ただ色んな生き物がいれば良いわけではない。生き物が持つ遺伝子や、他種との関係が「複雑」であることが重要らしい。
ひとつの種のなかで遺伝子がみな同じ、また他種との関係も単調だと、環境変化に耐えられない脆い生き物となってしまう。他とは違う複雑な遺伝子を持ち、生き物同士で複雑な関係を築くことが生きていくための必須条件だと書かれていた。
私は高校生という生き物が生息する教室を見渡した。「生き物は、複雑じゃないと生きられないのか…。」
この気づきは私を救った。頭や運動神経の良さ、また顔が整っているかなど、シンプルな優劣だけで世界は成り立っていると感じていた頃。その分かりやすさにどうしても素直になれず、意味もなく混沌とした自分へのもどかしさを、そのまま受け入れられた気がした瞬間だった。
確かにシンプルなことは美しく、分かりやすさは強さでもある。しかし私たち生き物の実態は「複雑じゃないと生きられない」のだ。簡単に分かり合えないからこそ支え合い、弱さによって繋がる連鎖の上で、生き存えていることを忘れてはいけない。
そんなことを思い出しながら、悩み絡み合う2人を見る。結婚に限らず誰かと生きるということは、複雑であり続けることを求めているからかもしれない。
シンプルに、分かりやすいことよりも、少し面倒なややこしさを愛おしく想う。2人のこれからがそんな日々となるよう願っている。