たわいない帰り道
「それでは今日の練習はこれで終わります。お疲れさまでした。」
いつもの土曜日、21時。趣味で続けている吹奏楽団の、毎週の活動終了時間だ。終わりの掛け声を合図に楽器を片付けて、同期の5人でわらわらと集まる。
なんの変哲もないこの土曜日の夜を、私はいつも愛しく思っている。
毎年行っている定期演奏会を控えたこの頃は、土曜日の夜の合奏が終わったら、次は日曜の朝9時からの練習に集まる。家に帰ったら22時過ぎ、そこからまた翌日の練習のために、8時前に家を出なくてはならないこの生活が大変で、いつまで続けられるかなぁと毎年思う気持ちを繋ぎとめているのは、このゆるやかな繋がりが生んだ帰り道のせいだ。
20代前半からずっと続けているこの活動も、きっといつかは終わりが来る。
20代後半になった今、毎週末を一緒に過ごしてきた同期の皆が、誰も遠方に引っ越しもせず結婚もせず、変わらない関係を続けていられるのは、最早珍しい部類に入ってくるのかもしれない。
「明日の練習場所遠いよ、起きられるかな」
「演奏会のダンスメンバーになってるから練習しなきゃなんだけど、家じゃ練習する場所もないし、このままじゃ夜の公園で踊る不審者になるしかないんだけど」
「新しい猫を飼い始めたら可愛くて、写真フォルダが猫だらけになってね」
思い思いにそんなことを話しながら歩く練習場所から駅までの15分間が、好きすぎて泣き出しそうになってしまう。仕事で見せる顔とはまた、違った居場所。「また来週」も「また明日ね」も、当たり前の関係。
大人になったらそういうの、特別で大切でそれだけで、日々を過ごす力になってくれるの。あと何年続くかわからないこの関係を抱きしめながら、たわいない帰り道にまた、1週間を過ごす力をもらう。ずっと一緒は叶わないけど、今この時を一緒に過ごせたことが、この先もいつか、きっと私を支えてくれる。