ロングヘア
きっかけは、街中で綺麗な黒髪の女の人を見かけたことだった。
腰の辺りまで伸びた髪は艶やかで、1本1本櫛を通したかのように整然としていた。私もあんな風になりたい。そう思った。その日からヘアトリートメントを使い、ドライヤーを丁寧にするようになった。ショートだった私の髪は肩にかかるくらいには長くなった。
この頃、1つの悩みが生まれた。それは、自分にはロングヘアは似合わないのではないか、ということ。丸い顔の私は髪を下ろすと何だか野暮ったく見えた。お風呂上がりに髪を乾かしていると、鏡の中の私は不満そうな顔をしていた。
ある日、恋人が家に泊まりに来た。
彼に髪を乾かしてもらっている時にふと、私ロング似合わないかなあと呟いた。彼はドライヤーを熱心にかけながら、僕は短いのも長いのも可愛いと思うと言った。思いがけない褒め言葉に驚きながらも、私は自分の口元が緩むのを感じた。
街中の鏡に映る自分が、あの女の人に近づいているだろうかと思いながら、今日もまた髪をとかしている。